アルツハイマー型認知症について知りたい人「アルツハイマー型認知症について知りたい。認知症でもっとも多いのがアルツハイマー型認知症だって聞いた。もっとも多いということは、介護職としてきちんと理解しておく必要があるよね。どんな認知症なのかな?」
こんな疑問を解決します
この記事の内容
こんにちは、せいじです。介護の仕事を20年以上しており、現在は介護の研修の講師やコンサルタントの仕事をしています。
さて、認知症には複数の種類がありますが、その中でももっとも多く、認知症全体の6割を占めるのがアルツハイマー型認知症です。
ですから、介護職をする上では、絶対に理解が必要な認知症であると言えます。
というわけで、今回はアルツハイマー型認知症について解説します。
アルツハイマー型認知症とは
では、アルツハイマー型認知症について見ていきましょう。まずは、アルツハイマー型認知症とはいったいどのような認知症なのかについておさえておきます。
アルツハイマー型認知症とは、認知症の中でもっとも患者が多い認知症です。認知症全体の6割を占めるんですね。
アルツハイマー型認知症になると、脳の神経細胞が徐々に減っていき、脳全体が萎縮していきます。脳全体が萎縮していくということは、能力全体が低下していくことになります。
アルツハイマー型認知症の原因
次に、アルツハイマー型認知症の原因について見ていきましょう。
原因は不明
アルツハイマー型認知症は、脳に次のような変化が見られます。
アルツハイマー型認知症による脳の変化
- 老人斑(アレミロイド斑)の出現
- 神経繊維変化
- 神経細胞の萎縮
アルツハイマー型認知症を発症している人の脳には、たんぱく質のひとつであるアレミロイドβが蓄積してできる老人斑(アレミロイド斑)と呼ばれるものが出現することがわかっています。
そして、脳の神経が脱落していき、脳全体が萎縮する症状が見られます。
ただし、どうしてそのようなことが起こるのか、という原因についてははっきりとわかっていません。
発症リスクを高める原因
直接的な原因がわかっていないアルツハイマー型認知症ですが、発症リスクを高めると考えられる原因については、次のようなことが挙げられます。
上記の危険因子の中でも、特に関係性の高い因子とされるのが「加齢」になります。ですから、アルツハイマー型認知症については、アンチエイジングが重要になってくるといえるでしょう。
アルツハイマー型認知症の症状
続いて、アルツハイマー型認知症の症状についておさえていきましょう。アルツハイマー型認知症は、脳全体が萎縮していくことから、全般的障害症状が特徴になります。
アルツハイマー型認知症の初期症状
アルツハイマー型認知症の初期症状は、記憶力の低下です。具体的には次のような症状が見られた場合、初期症状である可能性が高いです。
アルツハイマー型認知症の初期症状
- 何回も同じことを繰り返して言う
- 今したことや出来事をすっかり忘れる
- 頼まれたことを忘れる
老化によって起こる物忘れと混同してしまいがちですが、物忘れとの違いをまとめると、次のようになります。
アルツハイマー型認知症の記憶障害の特徴
- 体験全体を忘れる→なにを食べたかではなく、食べたことすら忘れる。
- ヒントを与えても思い出せない
- 新しい出来事を記憶できない
- 時間や場所などの見当がつかない
- 日常生活に支障がある
- 物忘れに対して自覚がない
このような物忘れが見られたら、アルツハイマー型認知症の初期症状の可能性があります。検査を受けて、早期に治療を始めるようにしてください。
初期症状を含めて、アルツハイマー型認知症の特徴的な症状について掘り下げていきます。
記憶障害
初期症状で紹介したように、アルツハイマー型認知症では記憶障害が発生します。内容は前述した通りですが、記憶障害は、しばしば物盗られ妄想などの被害妄想につながる場合があります。
物盗られ妄想とは、たとえば自分で財布を直したにもかかわらず、直したことを忘れて誰かに盗られたと考えることです。
自分の身近な人から疑うようになるため、いつも介護をしてくれている家族とか、介護職が疑いの対象になります。
疑いを持つと介護拒否につながる可能性があり、介護ができなくなると当然日常生活に影響を及ぼしてしまいます。
ですから、物取られ妄想には適切に対応し、疑いが深くならないようにしなければなりません。
たとえば、財布がなくなった、という訴えに対して介護者が探して見つけてしまうと「やっぱりあなたが隠していたのね」と不審を助長してしまうことになります。
ですから、いっしょに探して最終的に本人に見つけてもらうといった工夫が必要になります。
なお、記憶障害は最近の記憶から失われていき、症状が進行すると昔の出来事も忘れるようになります。
見当識障害
見当識障害とは、時間や場所、人の顔の理解ができなくなる障害です。見当識障害によって、次のような問題が起こります。
見当識障害は進行するに連れて「時間→場所→顔」の順番に障害されていきます。
判断力の低下
その場その場に必要な判断をする力が低下します。ですから、その場に応じた適切な判断ができなくなり、日常生活に大きな影響が出てしまいます。
実行機能障害
物事を計画立てて実施できなくなる障害です。
たとえば、私たちは普段、ささいなことでも頭の中で段取りを決めて行っています。服を着替えるのであれば、
タンスから新しい服を出す→今着ている服を脱ぐ→新しい服を着る
といった具合です。
実行機能障害では、これができなくなるため、実際の行為をすることができなくなってしまうのです。
失行・失認
失行とは、身体能力に問題はないのに、行為をすることが理解できず行えなくなることです。失行には次のような種類があります。
失認も、失行と同様身体的な機能には問題がないのに、認知できない障害です。次のような種類があります。
アルツハイマー型認知症の診断方法
初期症状の記憶障害が見られるなど認知症の疑いが出た場合、早期に治療を開始する必要があります。なぜなら、認知症は不可逆的な病気であり、進行すると戻すことができないからです。
ですから、進行しないように止める治療が必要になります。
認知症かどうかを判断するために、次のような評価、検査方法があります。
改訂長谷川式認知症評価スケール
認知症の代表的な評価スケールとして「改訂長谷川式認知症評価スケール」があります。質問に答えていくことによって、認知症である可能性を評価することができるのです。
質問として用意されているのは、記憶力や見当識、計算力などを問う内容で、認知症の初期症状の有無を評価するんですね。
認知症の疑いが見られる、と評価されると、本格的に認知症の検査に移っていきます。
MRI検査
認知症の疑いがある場合、MRIの検査によって脳を確認します。アルツハイマー型認知症であれば、脳に萎縮が見られます。
アルツハイマー型認知症の治療方法
検査でアルツハイマー型認知症と診断された場合の治療方法としては、服薬による薬物療法と、それ以外の非薬物療法があります。
薬物療法
薬物療法としては、次のような薬があります。ただし、認知症を治療するものではなく、進行を抑制する目的になります。
アルツハイマー型認知症の薬(商品名)
- ドネペジル(アリセプト)
- メマンチン(メマリー)
- ガランタミン(レミニール)
- リバスチグミン(リバスタッチ・イクセロンパッチ)・・・貼り薬
この他、BPSD(行動・心理症状)を軽減するものとして、抗精神病薬のチアプリド(グラマリール・リスペリドン・ハロペリドール)が処方されることがあります。
その他にも、精神的に安定する効果のある漢方の抑肝散(よくかんさん)が使われることがあります。
非薬物療法
薬を使わない非薬物療法としては、次のようなものがあります。
非薬物療法
- リハビリテーション
- 心理療法
- その他
リハビリテーションでは、身体を動かしたり作業をしたりして、脳の活性化を図っていきます。
心理療法の主なものとしては、回想法があります。昔の写真や映像を見ながら、昔を思い出すことで脳を活性化させます。
他にも、音楽を使った音楽療法やアロマテラピーなどがあります。
アルツハイマー型認知症の方への関わり方
アルツハイマー型認知症の方には、BPSDを軽減するための環境や関わり方の工夫が必要になります。
記憶障害や見当識障害によって、混乱を招くことがあるからです。この混乱などがBPSDにつながるわけですね。
それでは、どのような工夫が必要になるのかについて見ていきましょう。
記憶障害や見当識障害に対する工夫
アルツハイマー型認知症の方は、時間や場所がわからなくなったり、約束を忘れてしまったりします。ですから、忘れることを前提に、忘れても生活できるようカバーする環境づくりが重要になります。
たとえば、カレンダーに今日が何日かわかるような工夫であったり、さらに今日の予定がわかるようにメモしてあったりすると、忘れてしまっても把握することができます。
トイレの場所などがわからなくなる場合は、トイレの場所を示す張り紙があれば行くことができます。
記憶障害は、薬の飲み忘れの原因にもなります。日々服用する薬を忘れてしまうと、長い目で見た時に病気の進行を早めてしまう可能性があります。
ですから、今日服用する薬がわかりやすいように、お薬カレンダーなどを用いて管理するといいでしょう。
お薬カレンダーとは、カレンダーにポケットがついていて、今日服用する薬をそのポケットに入れておくことで、きちんと服用できているかどうかがわかるようになっています。
精神的な安定を図るための工夫
アルツハイマー型認知症の方は、不安やイライラ、焦燥感といった心理症状を発症するケースも少なくありません。
その原因も、環境によるところが大きいです。ですから、安心できて穏やかに過ごせる環境づくりに努めましょう。
環境要素のひとつに、介護者の関わり方があります。介護者の関わり方で重要なポイントは、発言を否定しないことです。
たとえば、すでに食事を食べたのに、まだ食べていないという訴えがあったとしましょう。
それに対して、もう食べたことを伝えても本人は混乱します。なぜなら、その人の中では食べていないことが事実だからです。
介護者は、食べていないという気持ちに寄り添い、精神的に穏やかになれるように関わる必要があります。
食べていないということを否定するのではなく、本人の気持ちを受容し共感、そしてその不安や不満が解消されるように、時には忘れられるように関わっていくのです。
環境の変化や不快な環境を避ける
アルツハイマー型認知症の方は、環境の変化による混乱が起こりやすい状態です。環境が変わると、人間は新しい環境に適応しようとしますが、アルツハイマー型認知症の方は適応力が低下しています。
ですから、適応できずに混乱を起こすのです。混乱は、BPSDの原因になったり、認知症の進行を促進する原因となります。
極力、環境が変化しないようにしてください。
また、本人が不快と感じるような環境を避けるようにしなけばなりません。不快な環境は、BPSDにつながるからです。
たとえば、騒音などの音環境、光、照明であったり室温や湿度といった環境の影響です。私たちでも、騒音のひどい環境に置かれると、イライラしますよね。
蒸し暑く過ごしにくい環境だと、ストレスに感じます。快適に過ごせるように、環境整備してあげてください。
アルツハイマー型認知症を予防する方法
最後に、アルツハイマー型認知症を予防する方法について見ていきましょう。残念ながら、アルツハイマー型認知症の原因は不明となっており、100%防ぐことはできません。
しかし、アルツハイマー型認知症になるリスクを下げることはできます。なぜなら、リスクを高める因子についてはある程度知られているからです。
予防するために必要なことをまとめると、次のようになります。
アルツハイマー型認知症を予防する方法
- 睡眠不足を避ける
- 喫煙をしない
- 生活習慣病を予防する
掘り下げていきます。
睡眠不足を避ける
睡眠不足の人は、アルツハイマー型認知症になるリスクが高くなります。ですから、きちんと睡眠時間を確保するようにしてください。
個人差はありますが、一般的に人間の理想的な睡眠時間は8時間とされています。たとえ8時間はむずかしくても、最低6時間は睡眠するように心がけましょう。
喫煙をしない
喫煙もアルツハイマー型認知症のリスクを高める要因となります。それだけでなく、喫煙習慣は生活習慣病になるリスクも高めます。
百害あって一利なしと言われるように、喫煙はやめたほうがいいでしょう。
生活習慣病を予防する
生活習慣病も、アルツハイマー型認知症のリスクを高めます。食生活や生活習慣を見直し、健康的な生活を心がけましょう。
アルツハイマー型認知症の原因や症状、治療方法とは:まとめ
アルツハイマー型認知症の原因や症状、治療方法などについて書きました。
まずは、アルツハイマー型認知症になるリスクをおさえるため、生活習慣を見直してください。そして、もし初期症状が見られたら、早期発見、早期治療に努めましょう。早期発見することによって、認知症の進行を遅らせ、たとえ認知症になっても元気に生活できる時間を長く持てるようになります。
アルツハイマー型認知症への対応については、ご本人の世界を理解し、その世界で起こっていることに寄り添うという姿勢で関わってください。
また、BPSDを軽減するために環境の工夫をしてください。
ということで、今回はこのへんで終わりにしたいと思います。最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
コメント