ケースワークの対人援助技術として、「バイスティックの7原則」がありますよね。利用者や職員と話しをする中で、悩みや課題を導き出し、解決に向けて進めるために必要な技術だと思います。でも言葉が難しくてあまりよくわかりません。事例も交えたわかりやすい説明がほしいです。
こんな悩みを解決します
この記事の内容
こんにちは、せいじです。
現在はチームワーク向上や介護職のモチベーションアップ、リーダーの指導力向上などのセミナー講師として活動しています。
簡単な経歴は以下のようになります。
- 主任ケアマネ:6年
- 老人ホームの施設長:6年
- 人材育成のセミナー講師:半年
- 採用面接や職員育成:約1,000名
詳しいプロフィールは下記のリンクをご覧いただけると嬉しいです。
対人援助技術の原則として、「バイスティックの7原則」があります。
介護職にとっても利用者やスタッフの支援をしていくにあたって、非常に大切な原則です。
また、バイスティックの7原則は、仕事だけでなく、プライベートな人間関係を豊かにしていくためにも、非常に有効です。
ということで、今回はバイスティックの7原則をまとめていきます。
なお、社会福祉用語として相談者のことをクライエントと呼ぶので、バイスティックの7原則を説明するにあたっては、利用者やスタッフなど援助対象者をクライエントと表現します。
バイスティックの7原則とは?
「バイスティックの7原則」とは、アメリカのケースワーカーで社会福祉学者のフェリックス・P・バイステック(Felix P.Biestek)が、1957年に著書『ケースワークの原則』で記したケースワークの原則です。
現在のケースワークにおいて、バイスティックの7原則は基本的な作法として認識されています。
以下の7つの項目によって構成されています。
- 個別化の原則
- 受容の原則
- 意図的な感情表出の原則
- 統制された情緒的関与の原則
- 非審判的態度の原則
- 自己決定の原則
- 秘密保持の原則
掘り下げていきます。
個別化の原則
個別化の原則とは、クライエントをひとりの個人として扱い、その抱える悩みや問題を個別化して考えるということです。
ポイントは下記の通りです。
- 人のものごとのとらえ方は価値観によって異なる。同じ状況下の人をひとくくりで考えてはいけない。
- 「70歳・女性・右麻痺=全員同じ悩み」ではない。
たとえば、まったく同じ状況に立たされている人でも、価値観によって捉え方が違います。
問題や悩みになる人もいれば、チャンスと感じる人もいるし、なんとも思わない人もいます。
個人の価値観というフィルターを通すことで、違いが生まれるのです。
価値観はこれまでの人生の経験を通して作られていくものなので、まったく同じ人はいません。
なぜなら、人生の中でだれひとりとして寸分たがわぬ同じ生活を送ってきた人はいないからです。
ということは、課題や問題に対しての受け取り方も、人それぞれ違うということになります。
まったく同じことがらで恋人とケンカしたとしても、軽く考える人もいれば、深刻に受け止める人もいます。
価値観が違うことを前提に、個人がどのようにとらえたかを考えなければならない、ということです。
個別化の原則をバイスティックの7原則の個別化の原則をわかりやすく解説でさらに掘り下げて解説しています。
読んでいただけると嬉しいです。
受容の原則
受容の原則とは、クライエントを「ありのままを受け止める」ということです。
- 自分の価値観を横にどけて、クライエントの話しを聞く
- クライエントの感情をありのまま受け止める
「ありのまま」というのがむずかしいですね。
要は、援助者の価値観をはさまないで、クライエントが感じたことをそのまま受け止めるということです。
たとえば、クライエントが悩んでいることがらが、援助者にとって「大したことないな、自分の方がもっとつらい経験をしているよ」と思ったとしても、それは横に置いておかなければなりません。
なぜなら、目的は相手を援助することだからです。
自分がどう感じるかではなく、相手がどう感じたか、が重要ということですね。
バイスティックの7原則における受容の原則をわかりやすく解説でさらに解説しています。
ぜひご覧ください。
意図的な感情表出の原則
意図的な感情表出の原則とは、クライエントが自分の感情をありのまま表現できるように援助することです。
- クライエントの感情を大切にする
- クライエントが感情を出しやすいよう、援助者が配慮する
悲しい気持ち、つらい気持ちなどを、ありのまま表に出せるようにするということですね。
たとえば、あなたが悲しい気持ちの時に、援助者が悲しい表情で聞いてくれると、「自分の気持ちをわかってくれているんだ」と感情を出しやすくなりますよね。
逆に、悲しい気持ちの時に援助者がへらへらと笑っていたら「この人は自分の悩みを真剣に考えてくれていないんだ」と自分の感情を出せなくなってしまいます。
クライエントの感情に寄り添うように支援することが必要なのです。
クライエントがあるがままの感情を表現することができると、自分の気持ちや置かれている状況に改めて気づくことができます。
バイスティックの7原則における意図的な感情表出の原則を解説で具体例を交えて解説しています。
統制された情緒的関与の原則
統制された情緒的関与の原則というのは、クライエントの話しに対して、援助者は自分の感情をコントロールしながら聞かなければならない、ということです。
- 自分の感情をコントロールするために、自己覚知が必要
- クライエントの話しを聞きながら、自分の感情に注意を払う。
対人援助では、相手の価値観、感情をありのまま受け止めなければなりません。
その際に、自分の感情が動いてしまうと、相手の感情に寄り添えなくなります。
たとえば、クライエントの話しが、自分の価値観においては「許せない」と怒りを感じるものだったとします。
その状態ではクライエントの話しをありのまま受け止めることができませんよね。
自分の怒りの感情に引っ張られて、そのものさしでクライエントの話しを聞いてしまうからです。
また、援助者が怒りの感情を持っていることがクライエントに伝わってしまうと、クライエントはありのままを表現できなくなってしまいます。
ですから、援助者は普段から、自分がどんなことに怒りを感じ、悲しみを感じ、つらいと感じるのか、といった自分への理解を深めておく必要があります。
これを自己覚知と言います。
自己覚知は、対人援助を行うにあたってはとても重要です。
別記事で書いているので、ぜひご覧ください。
非審判的態度の原則
非審判的態度とは、審判をしないこと、つまり、クライエントの話しを援助者の価値観で裁かないということです。
- クライエントの話しを自分の価値観に基づいて、良い、悪いの判断をしない
- クライエントの話しを客観的にそのままを受け止める
繰り返しになりますが、援助者に必要なことは、クライエントのありのままを受け止めることです。
クライエントの体験や感情はクライエントのものであり、援助者はそれに対して自分の価値観によって良いとか悪いといった判断をしてはいけないのです。
つまり、評価しなということですね。
バイスティックの7原則における非審判的態度の原則を解説でさらに深堀してみました。
ご覧いただけると嬉しいです。
自己決定の原則
自己決定の原則とは、悩みや課題への対処に関する選択は、援助者ではなくクライエント自身がするものである、という原則です。
問題や悩みに対する主役はクライエントです。
どうするのかを決めるのは援助者ではなく、クライエント自身でなければなりません。
- 援助者が思う答えに導くのではない
- クライエントが問題に向き合い、クライエント自身が思う結論に到達できるよう導く
問題を抱えている人は、状況によっては冷静な判断ができなかったり、自暴自棄に陥ってしまうことがあります。
そのような時に援助者は冷静になれるよう導いたり、適切な判断ができるような状況を作ったりといった支援が必要になります。
援助者はそうすることで、クライエントが自分にとって正しい判断を決定できるよう、寄り添うのです。
たとえば、問題に対して「どうすれば解決できると思う?」と質問をします。
そして、その回答に対して、さらに深めていけるよう「どうすれば?」と掘り下げていくのです。
それを繰り返し行い、クライエント自信が結論にたどり着けるよう導いていきます。
この際「なぜ?」という言葉より「どうすれば」とか「どうして?」という言葉を使った方がいいですね。
「なぜ?」を使うと、クライエントが詰問されているように感じやすいからです。
注意しなければならないのは、援助者が選択肢を提示し、その中からクライエントが決めるといったた形にしてはいけない、という点ですね。
これをすると、援助者が考える結論に導くことになってしまいます。
自己決定の原則を掘り下げた記事がバイスティックの7原則における自己決定の原則をわかりやすく解説になります。
ぜひご覧ください。
秘密保持の原則
秘密保持の原則とは、クライエントの話しを絶対に他の人に漏らさない、ということです。
そして「この援助者は自分の話しを他の人に言うことはない」とクライエントに信用してもらうことです。
- 絶対に秘密を守る
- 守ってもらえる、という安心感をクライエントに提供する
自分の抱えている問題や悩みを人に話すことは、勇気がいります。
特に深刻な問題であったり、人に聞かれると恥ずかしいと思う内容は、信用できる相手にしか話すことができません。
援助者はクライエントが安心して話せるよう、秘密保持に関して徹底して言葉や態度で伝えていく必要があります。
そうやって信頼関係ができてはじめて、クライエントは安心して本音を話すことができます。
本当の悩みや感情を引き出せないと、適切な援助にはつながりません。
ただ、秘密を守るということは、援助者にとって精神的な負担を感じることでもあります。
人の口に戸は建てられない、という言葉があるように、人間は特別な話しを聞くと人に言いたくなる傾向があります。
ですから、しっかりと自分の気持ちをコントロールしなければなりません。
秘密保持の原則をさらに掘り下げた記事がバイスティックの7原則における秘密保持の原則をわかりやすく解説になります。
秘密保持の原則の重要性がさらに分かっていただけると思うので、良かったらご覧ください。
参考文献
対人援助に関する本を数冊出版されている植田寿之先生の本を紹介しておきます。
介護現場での具体例を挙げつつ、対人援助についてわかりやすく書かれています。
施設で対人援助を取り入れて職員を育成する流れを、物語として書かれている章もあり、現場で実践しやすいと思います。
奈良県の介護支援専門員研修にも登壇され、このテキストを使って講義が行われます。
持っていて損のない一冊です。
まとめ
「バイスティックの7原則」をまとめました。
バイスティックの7原則は、仕事、プライベートに関わらず、人間関係を良好にしていける原則です。
意識的に取り組むことで、良い人間関係を手に入れられるはずです。
ぜひ、活用していただければと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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