介護職が「やってて良かった」と思う第1位は、利用者から「ありがとう」という言葉をもらった時だという人が多いです。
人に喜んでもらえるというのはとても嬉しいことですし、介護職の仕事の醍醐味であります。
しかし、介護福祉士の資格を取得し、介護歴が長くなっても「ありがとう」がやりがいでいいのでしょうか。
専門職としての介護職を考えた時に、疑問が残ります。
このことを掘り下げて書いていきます。
この記事の内容
- 利用者の「ありがとう」に単純に喜んでいては、介護の専門性が損なわれ、介護保険の存続も危ぶまれる
- 介護職は利用者の自立支援の成果が喜びであってほしい
「ありがとう」で表す感謝することについては、する方も、された方も、幸福感を感じる脳内ホルモンが分泌されることがわかっています。
しかし「ありがとう」と言ってもらう内容について、介護職としては注意しなければなりません。
利用者の「ありがとう」の注意点
専門職として利用者の「ありがとう」に注意が必要なのは次の点です。
- お手伝いさんとしての「ありがとう」になっていないか?
- お手伝いさん化は介護職を滅ぼす
- お手伝いさん化は介護保険を破壊する
掘り下げていきます。
お手伝いさんとしての「ありがとう」になっていないか?
「ありがとう」という言葉は、人からなにかしてもらったときに感謝を表す言葉ですよね。
しかし、介護の専門職である介護職は、その中身に注意を払わなければなりません。
要は「単なるお手伝いさんになっていないか?」ということです。
介護職は自立支援をすることが仕事です。
ありがとうと言ってもらえた行為が、自立支援につながるものだったのかどうか、注意が必要なのです。
たとえば、自分で靴を履ける利用者の支援にかかわったとします。
利用者が靴を履くのに手間取っているのを見て、すべて介助して靴を履かして差し上げました。
利用者がそれに感謝して「ありがとう」と言ってくれたとして、これを喜んでいいのか、ということです。
なぜなら、それは利用者の残存能力を奪う行為であり、これを繰り返せば利用者は自分で靴を履くことができなくなるかもしれません。
ということは、長い目で見た時に、本当は感謝される行為ではなかったということになります。
履きにくそうにしているのに、自分で履けるまで待つなんて、意地悪じゃないか!!
という意見もあるかもしれません。
一見そう感じるかもしれませんが、それでもすべて介助してしまうのは良くないのです。
介護職として支援するのは、自分で履ける環境を作ることです。
ですから、靴の位置を少し変えるとか、安定するように身体を支える、などの支援が必要なのです。
介護の専門性を低下させるお手伝いさん化
新人の介護職が利用者の「ありがとう」に喜ぶのは良いと思います。
それが自信になり、介護職としての成長につながるからです。
しかし、経験も知識もある介護職ならば、単純に喜んでいてはいけないと思います。
利用者の残存能力を把握し、できることは自分でしてもらうよう促し、できないところは気持ちよくお手伝いするのが介護職の役割です。
ですから、利用者からの「ありがとう」が、できないところに対するお手伝いであれば良いのです。
しかし、そうでないのであれば、介護職はそのことを理解したうえで受け取らなければなりません。
常にすべての支援が自立支援に向かってなければならないのか?
という反論があるかもしれません。
私たちと同じように利用者さんもひとりの人間ですから、日によって気分が冴えなかったり、身体が思うように動かない時があります。
毎日自立に向けて頑張っておられる方が、少し精神的や肉体的に疲れが出て、人に甘えたいときもあります。
その時は、その人の心に寄り添って、あえて支援して差し上げることが正解でしょう。
そうすることで「また明日から頑張ろう」という思いを、利用者に持ってもらえるからです。
しかし、介護職の都合で支援した結果、「ありがとう」ともらって喜んでいては、専門職として失格ですね。
訪問介護では深刻な問題になりえる
特に訪問介護では、このことが深刻な問題になりえます。
介護保険上では許されていないサービスを介護保険を使って行うことで、結果として保険料の無駄遣いになるからです。
利用者やご家族によっては、至れり尽くせりしてくれるのが介護サービスだと思っている方がおられます。
そういった方々は、時に介護保険の訪問介護では許されていない「共有スペース」、つまり利用者本人だけでなく、家族も使う場所の掃除をお願いしたり、家族の分の調理をお願いする方がおられます。
これを安易に受けてしまうと、介護職はお手伝いさん化してしまい、本来の介護保険の目的から外れてしまいます。
介護保険は要介護高齢者の支援を目的としているからです。
もうひとつ大きな問題は、介護保険のルールに反したサービスに柔軟に対応することで、サービスの質が良いと評価されてしまうことです。
利用する側からすると、できないことをあえてしてくれたというのは「親切」となります。
きちんと断る事業所は「融通の利かないところ」と不満になります。
間違ったサービス提供によって、間違っている訪問介護事業所が人気となり、きちんとしている事業所の運営が危機にさらされる可能性があるのです。
お客さんを失わないために、多くの事業所が介護保険外のサービスを、介護保険を使って提供するようになると、本当に支援を必要としている人が使えなくなり、介護保険制度自体が破綻してしまうことになります。
介護職の仕事は自立支援
介護職の仕事はお手伝いではなく、介護過程の展開に基づいた自立支援です。
そこに専門性があります。
- 介護職としての喜びは、自立支援の達成具合でありたい
- 近い将来、介護状態の改善に対する評価報酬が本格化する
掘り下げていきます。
介護職としての喜びは、自立支援の達成具合でありたい
介護職の喜びは、自立支援に向けて利用者の意欲が向上したとか、できることが増えたとか、そういったことに対する物であってほしいと思います。
なぜなら、介護の専門性は介護過程に基づいた自立支援だからです。
たとえば、計画書の目標を達成することができたとか、課題を解決して求める生活ができるようになったとか、そういったことが喜びの中心であってほしいと思います。
もちろん、利用者の感謝が喜びであって悪いわけではないのですが、それだけにとどまってしまうと、介護職のただの自己満足ではないでしょうか。
近い将来、介護状態の改善に対する評価報酬が本格化する
平成30年の介護保険の改正で、排せつ状況の改善や身体能力の向上に対する加算が新設されました。
これまで何度も検討されてきましたが、今回ついに実施されました。
今回は様子見の意味合いもあって、報酬はかなり少なく設定されていますが、次の改正では本格的に改善に対する評価に重きがおかれていくという話しが出ています。
この加算の意味合いを介護職としてとらえると次のようにまとめることができます。
- 本来の介護の目的である自立支援が報酬という評価になる
- 高齢なので改善しない、という逃げができなくなる
- 介護職の専門性を高めないと事業所の運営に影響する
これまで介護の質にかかわるような加算はありませんでした。
介護職の専門性を証明できるチャンスではないでしょうか。
まとめ
利用者に感謝していただけることは大変嬉しいことですが、単純に喜んでいては介護職として不十分ではないか、ということを書いてみました。
施設サービスの支援から在宅サービスの支援に戻って、あらためて自立支援は重要だと感じています。
なぜなら、一日でも長く家で生活していきたい、と願っている利用者本人、そして家族様が多いからです。
幸せな在宅生活を長く継続していくためには、介護負担をできる限りおさえていかなければなりません。
介護の専門性を求められる部分ですね。
介護福祉士は後輩スタッフに、自立支援の喜びを伝えていく役割があります。
それが本当のやりがいにつながるのではないでしょうか。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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