認知症には中核症状と、行動・心理症状(BPSD)があります。
行動・心理症状は周辺症状と呼ばれ、以前は問題行動と表現されていました。
介護者側からみると、問題に感じる行動だからです。
しかし、認知症の方は問題を起こそうとして行動しているわけではありません。
ですから、周辺症状と改められることになったのです。
介護者にとっては、周辺症状をいかにうまく抑えていくかが、負担やストレスの軽減につながります。
対応次第で十分可能であることを前提におきましょう。
というわけで今回は、周辺症状についてまとめていきます。
なお、中核症状については下の記事をご覧ください。
認知症の周辺症状と対応方法
周辺症状とは、認知症の中核症状に付随して起こる行動・心理症状(BPSD)を指します。
周辺症状には、精神的な面に現れる心理症状と、行動症状があります。
これらの原因となっているのは、身体の状態や心理状態、生活環境です。
具体的には次のようなものがあります。
- 不安感・心気状態
- 強迫症状
- 抑うつ状態
- 幻覚
- 妄想
- 睡眠障害・昼夜逆転
- 徘徊・帰宅願望
- 暴言・暴力・介護拒否
- 不潔行為
- 収集癖
- 異食行為
それぞれの症状を掘り下げていきます。
不安感・心気状態
「自分は病気ではないか」などと漠然とした不満にさいなまれる状態を言います。些細な身体の変化や症状に過度に反応し、不安を持つようになります。
不安が高まってくると、イライラが募り、じっとしていられないほどの焦燥感を感じるようになります。
また、気持ちが落ち込んで、抑うつ状態になることもあります。
これらの状態が続いた後、認知症が表面化することがあるため、特に注意しておかなければなりません。
強迫症状
不安感のひとつである強迫症状の主なものは、次の通りです。
- 洗浄強迫:手を洗ってもきれいになった感覚が得られず、何度も何度も洗う症状です。
- 確認強迫:家の戸締りをしたかどうかが不安で仕方なくなり、何度も確認する症状です。
私たちでも「あれ、玄関の鍵閉めたかな?」とか「エアコン切り忘れたんじゃ?」と心配になることがありますが、その不安がさらに大きい状態ですね。
「大変なことになる」という不安に襲われるため、精神的なストレスを感じます。
介護者は「きれいになってますよ」とか「玄関の鍵きちんと閉まってますよ」といった、声掛けを丁寧にしていき、安心できるように支援する必要がありますね。
抑うつ状態
高齢者が気分の落ち込みを訴える場合、うつ病や認知症の初期症状の可能性があります。
本人の気持ちに寄り添いながらも、それらの可能性を考えながら、受診を検討する必要があります。
幻覚
幻覚とは次のようなものがあります。
- 幻視:そこには実際にいない人の姿が見える
- 幻聴:誰も話しておらず、聞こえないはずの声が聞こえる
かなりリアルに見えたり聞こえたりします。
私がかかわった利用者さんは、夜中に廊下の一番奥を見ながら「ほぉら、兵隊さんがよぉさん来はったわ」とつぶやきました。
もちろん兵隊さんはどこにもいませんでしたが、利用者さんが見ていた廊下の窓の外には戦死者などを祀る護国神社があったため、なまじ幻覚とは思えずにびびりまくってしまった経験があります。
他にも、夜間の巡回時に、個室でひとり大きな声で会話をしている利用者さんもいました。
幻視や幻聴については、利用者にとっては実際に感じている事柄なので、頭ごなしに否定してしまうと、傷つけたり混乱させることになります。
否定せずに話をそらしていく対応が良いと思います。
妄想
代表的なものは被害妄想ですね。
明らかに本人の受け取りが事実ではないのですが、本人の中では事実として受け止めているのです。
- 誰かにお金を取られた
- 私だけ食事を食べさせてもらえない
- 周囲の人が悪口を言っている
このような妄想にさいなまれ、ストレスを感じるようになります。
状況によってはかなり落ち込んだり、疑心暗鬼になったりするケースがあります。
気持ちに寄り添いつつ、不安が払しょくできるような対応が必要になります。
妄想についてさらに掘り下げて書いてみました。
下記のリンクの記事をご参照ください。
睡眠障害・昼夜逆転
高齢になると睡眠障害を起こしやすくなります。
ここに認知症が加わると、昼と夜の判断がむずかしくなり、逆転した生活になることがあります。
介護者からすると、夜間に活発に行動されると日用生活に影響を及ぼすことになります。
介護職としても、夜間の寝静まった中で激しく行動されると、他の方の睡眠を妨げることになります。
勝手に他の方の部屋に入って行き、起こして回る、といったケースもあります。
介護職からしたら、目も当てらえないような状況ですね。
施設で昼夜逆転が起こる一つの原因としては、日中になにすることがない、という問題があります。
日中に活動的なプログラムを提供し、夜間は疲れて寝てしまう、というサイクルを作ることで、昼夜逆転が解消できるようにしていきましょう。
徘徊・帰宅願望
認知症の方が歩き回る状態のことを徘徊と言います。
次のような原因が考えられます。
- トイレに行きたいが場所がわからない
- 家に帰りたいが出口がわからない
- 目的の場所に行きたいが、どこにあるかわからない
徘徊という言葉の意味は「目的もなく歩き回る」です。
しかし、認知症の方は目的があって歩き回ります。
ですから、言葉が持つ本来の意味ではありません。
目的がなく歩き回っていると捉えると、徘徊はいつまでたってもおさまることはありません。
下肢筋力が低下して転倒のリスクがある人が、あちらでもこちらでも立ち上がられて、まるでもぐらたたきのような対応をしなければならなくなります。
なぜ歩き回っているのか、なぜ立ち上がってどこかに行こうとしたのか、といった理由を考え、そこにアプローチすることが必要です。
ちなみに、転倒リスクの高い利用者が立ち上がった場合、慌てて駆け寄る人がいますが、あれは逆効果です。
人は、誰かが自分めがけて走ってきた場合、恐怖で逃げたくなります。
ですから、余計に転倒リスクが上がります。
穏やかな表情で「どうしました?」と寄り添いましょう。
徘徊への対応について、より詳しく記事にしてみました。
下のリンクからご覧ください。
帰宅願望、夕暮れ症候群についてはこちらの記事をご覧ください。
暴言・暴力・介護拒否
認知症の方は日ごろから不安感を抱えています。
さらに、関わってくる人の話しや行動が良く理解できません。
ことさら不安になり、自分の身を守るために暴言を吐いたり、手を払いのけるなどの行動に出たりすることがあります。
表情や声の大きさ、トーンに注意し、ゆったりと穏やかに接するように心がけましょう。
認知症の方にとっては、安心感につながります。
不潔行為
トイレに行った際や、おむつの中の排泄物を触ってしまう行為です。
排泄物の理解ができなかったり、処理の仕方がわからなくなっている状態です。
おむつの場合、気持ちが悪いのでなんとかしたいとの理由で行為に及んでいる可能性があります。
排泄感覚を把握して、おむつで排泄しなければならない状況を改善することで、不潔行為を避けることができます。
収集癖
人のもの、自分のもの関係なく、いろいろなものを集めてしまう行為です。
施設でよくあるのがティッシュを自分の衣服のあちらこちらに入れる方です。
袖口や腹回り、ズボンの中など、あちらこちらからティッシュが出てきたりします。
確認しないで洗濯機を回してしまうと、悲惨なことになりますね。
ある利用者はスプーンをズボンの中に隠していて、それが動いた時に足を傷つけたということがありました。
十分注意が必要ですね。
物を集める行為は、精神的な不安感を解消するためと考えられます。
無理やり取り上げてしまうと不安になるため、本人がわからないようにかたずけていくようにしましょう。
異食行為
異食行為とは、食べ物ではないものを口の中に入れてしまうことです。
食べ物かどうかの判断がつかなくなり、食べようとしてしまうようです。
できるだけ周囲に置かないようにする配慮が必要ですね。
施設ではティッシュや薬の袋、おはじきや将棋、オセロ、囲碁の駒、テーブルの上の花などがリスクとして考えられますね。
まとめ
認知症の周辺症状についてまとめてみました。
認知症を患った以上、中核症状については遅らせることができても、治すことはできません。
しかし、周辺症状については、周囲のかかわり方で軽減することができます。
けっして利用者の発言や行動を否定せず、受容しながら気持ちに寄り添うようにしましょう。
また、視野を合わせたり、表情を穏やかにしたり、口調を柔らかくするように意識してください。
そうすることによって、認知症の方の不安感を軽減することができ、周辺症状を抑えることができます。
それでは今回はこの辺で終わりにしたいと思います。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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