介護施設スタッフ「認知症で徘徊する利用者の対応で悩んでいる。転倒のリスクや施設から勝手に出て行ってしまう離設のリスクがもあるし、本人もしんどいと思うのでなんとかしたい」
こんな悩みを解決します。
こんにちは、せいじです。
特別養護老人ホームの介護職時代、もっとも衝撃だったのは、毎回利用者さんと「はじめまして」の状態になることでした。
認知症棟の配属時はけっこう戸惑いましたね。
今後も増えていくであろう認知症の方、その方々に適切な対応ができるかどうかは、介護職として必須事項ですね。
この記事の内容
認知症の周辺症状による徘徊行為は介護職にとって頭の痛い問題ですね。
あちらこちらで同時に立たれて、対応に窮して泣きたい気分になった経験が誰しもあるのではないでしょうか?
実際「とてもじゃないけれど、安全なんて保障できません」と爆発してしまう介護職さんを何人も見てきました。
しかし、その状態を作り出しているのは、私たち介護職であったりもするのです。
というわけで、今回は認知症の周辺症状による徘徊への対応方法について書いていきます。
これを実践することで、立ち上がる利用者に対して、まるでもぐらたたきのように対応していた状況が改善されます。
認知症による徘徊とは
徘徊とは「あてもなくあるき回る行為」を指します。
そして、認知症による徘徊とは、認知症の症状が原因で徘徊することをいいます。
ただし、認知症の方(以下利用者)は、本当は目的があって歩いているので、厳密にいうと徘徊という表現は適切ではありません。
- 徘徊の原因
- 徘徊による事故のリスク
掘り下げていきます。
徘徊の原因
利用者の徘徊の原因は、認知症からくる記憶障害や見当識障害によって起こります。
見当識障害とは、時間や季節、自分のいる場所といったことがわからなくなる症状です。
これらが障害されることによって、実際の状況と利用者が認識する状況にズレが生じ、徘徊という行為になるのです。
見当識障害について、詳しくは「認知症の中核症状とは」をご覧ください。
徘徊による事故のリスク
利用者が徘徊することで次のような事故のリスクが発生します。
- 転倒事故
- 離設事故
- 異食事故
転倒事故
記憶障害や見当識障害により、自分の体の状態がきちんと認識できず、実際には歩けないのに歩こうとして転倒するリスクが高くなります。
老人ホームなどの介護施設では多い事故ですね。
介護職も対応に苦慮するところです。
離設事故
離設事故とは、利用者が職員の知らないうちに施設から出て行ってしまう事故です。
認知症の利用者が1人で施設から出ると、交通事故にあうリスクが非常に高くなります。
車道や歩道、横断歩道、車といったことが正しく認知できない可能性があるからです。
また、屋外のアスファルトは、施設の中と比べて歩く際の負担が大きくなります。
凹凸や疲労によって転倒リスクが高くなるのです。
さらに、真夏や真冬といった季節だと、それだけで命に関わるリスクが高まります。
異食事故
認知症があっても身体が元気な人は、ひとりで歩いている時間も多くなります。
介護職の目の届かない状態で歩き、徘徊の途中に食べ物ではないものを口にされるといったケースも考えられます。
廊下などの物品に注意が必要です。
徘徊への対応方法
利用者の徘徊行為に対して、どのように対応すれば良いかについて書いていきます。
- 徘徊には理由がある
- 徘徊の理由にアプローチして穏やかな対応を
- 認知症の利用者に対する不適切な対応例
- 徘徊の具体的な解決事例
掘り下げていきます。
徘徊には理由がある
認知症の利用者の徘徊には理由があります。
ですから、厳密には目的なく歩き回っているわけではありません。
認知症は現在の状況を正しく認知できない病気ですが、認知症の方の中では理由が発生して歩いているのです。
たとえば次のようなことがあります。
- トイレに行きたいが場所がわからない
- 家に帰りたいが出口がわからない
- 用事があって目的地まで行きたいが行き方がわらからない
認知症の方は正しく表現できないことも多いため、介護職からは行動の意味が理解できない場合があります。
しかし、行動には必ず理由があると考えてください。
徘徊の理由にアプローチして穏やかな対応を
徘徊の理由にアプローチすることで、徘徊を解決できる可能性につながります。
たとえば、トイレを探して歩き回っているなら、トイレに誘導することで利用者は目的を果たすことができます。
家に帰ろうとしている利用者が、どうして家に帰ろうとしているのかを理解することで、落ち着いて施設で生活できるようにすることができます。
たとえば、帰宅願望については次のような理由が考えられます。
- お客さんが来るから
- 子供や夫が帰ってくるから
- 親が心配しているから
- 家のことが気になるから
帰りたい理由を探り、その理由を解決できる対応をすることで、利用者は安心できます。
例としては次のような対応があります。
- お客さん~→「違う日に変更すると連絡ありましたよ」
- 子供や夫~→「今日はゆっくりしてくれていいよと連絡ありましたよ」
- 親が心配~→「今日はこちらで泊まると伝えているので大丈夫ですよ」
- 家のことが心配~→「今日はもう遅いので、明日にしましょう」
さらに掘り下げて考えると、「帰りたい」という思いの裏には「施設の生活に満足していない」という表れでもあります。
- 施設の空間が落ち着かない→自室になじみの家具などを置いて、落ち着く空間を作る。
- 顔なじみの人がいない→友人関係を作れるように支援したり、職員の関係を深める。
- 穏やかな気分になれない→職員の動きが慌ただしくなっていないか、職員の表情は険しくなっていないか
これらの対策を講じることで、利用者が環境に馴染み、穏やかに落ち着いて生活できるようになる可能性があります。
「介護はシンクロナイズドスイミング」という記事で、職員の動きが利用者にどのような影響を与えるかについて書いています。
参考にしてください。
認知症の利用者に対する不適切な対応例
徘徊、特に足腰が弱っている方が立ち上がり、転倒する可能性が高まることは、介護職のストレスにつながります。
立ち上がろうとする人に、つい「危ないから座っておいて!」と声をかけてしまいがちですが、これは逆効果にしかなりません。
想像してみてください。
あなたがトイレに行こうと立ち上がった時、「危ないから座っておいて!」と強制的に行けないようにされたらどう思いますか?
不愉快であると同時に、そのままではおもらししてしまうことになります。
失禁は、本来あってはならないぐらい恥ずかしいことではないですか?
だから、なんとしてでもトイレに行こうとするはずです。
その上でさらに押さえつけられたら、ますますストレスが溜まり、怒りや混乱につながるでしょう。
利用者も当然同じような状態になるのです。
繰り返しになりますが、利用者は目的があって立ち上がります。
そして、認知症があるため、本当は歩けなくても、利用者は歩けると思っています。
にもかかわらず行動を制限されると、利用者にとしてはとても理不尽に感じます。
利用者からしたらなんとか目的を果たそうとして、さらなる行動に出るでしょう。
これではいつまで経っても問題が解決しませんし、利用者も介護職もストレスが溜まり、リスクが高まっていくだけです。
介護職は利用者の中で起こっている世界に寄り添い、問題が解決し安心できるように関わらなければなりません。
利用者の行動を言葉で制限することは、身体拘束に当たる場合があります。
詳しくは「介護現場のロック!スリーロックとはなにか?」を参照してください。
徘徊の具体的な解決事例
私が実際に関わった中で、特に印象に残っている徘徊の解決事例を紹介します。
- Aさん(男性)80代
- 過度のアルコール摂取による認知症
- 発語はほぼない(できない?)
- 話しの理解は完全ではないができる
- 歩行可能(すり足歩行)
- 夜間徘徊があり、ほとんど布団で寝ない。日中うたた寝。
Aさんは夜間、居室に誘導して布団に入ってもらっても、ものの5分でリビングに出てきて、椅子に座ってテレビを見ます。
そして、「定期的に廊下を一周し、またリビングに戻ってテレビを見る」という行為を一晩中繰り返します。
その間、どれだけ居室に誘導しても、必ず5分ほどでリビングに出てきて、また同じ行為をします。
なんとか休んでもらいたいと考えた介護職は、様々な対策を実施しました。
- 日中を活動的に過ごしてもらう
- 寝る前に足浴をする
- 夜に入浴してもらう
- 寝る直前にホットミルクを提供する
しかし、どれも効果はありませんでした。
ある日、ひとりの介護職が、Aさんのこれまでの経歴の中に「住み込みで学校の用務員の仕事をしていた」という記述を見つけました。
それがヒントとなり、徐々にAさんの徘徊の理由が見えてきたのです。
Aさんはリビングでテレビを見ている際、時々顔を上にあげます。
その視線の先には壁にかけている時計があり、時間を確認しているそぶりを見せた後に廊下をぐるっと一周するのです。
どうやらAさんは学校の用務員時代に戻っていて、施設でも夜の見回りを定期的に実施していたのです。
Aさんにとっては大切な仕事であるため、どれだけ介護職が寝てもらおうとしても、応じることができなかったのでした。
それに気づいた介護職はAさんに「見回りは私がするので、今日は安心してゆっくり休んでください」と声をかけました。
するとAさんはその日初めて、自分の部屋でゆっくりと休まれました。
それからは、毎晩とはいかないまでも、自分の部屋で寝ることが劇的に増えました。
Aさんの世界に寄り添い、徘徊の理由にアプローチしたことで解決できたのです。
徘徊に対する施設の環境面の対応
徘徊時に発生するリスクを軽減するための対策として、次のようなものがあります。
- センサーマット
- 防犯カメラ
- GPS
- 個人情報カード
簡単に紹介します。
センサーマット
センサーマットとは、利用者がベッドから離れようとした際に反応してナースコールが鳴るといった装置です。
立ち上がりの際やひとりで歩行すると転倒のリスクが高い人に効果的です。
防犯カメラ
施設内の廊下などで、利用者の安全を守るために設置されます。
利用者の場所を把握し、適切な対応ができるようにします。
GPS
万が一施設からひとりで出てしまった時に、居場所を把握するために使います。
在宅生活をしていて徘徊の恐れのある認知症の利用者に用いることが多いですね。
個人情報カード
個人情報カードとは、利用者の名前や住所、保護者の連絡先などを書いたカードのことです。
認知症の利用者は、離設して保護されたとしても、自分の情報をうまく相手に伝えることができません。
その際に、情報カードが役に立つのです。
個人情報カードは、利用者がいつも持ち歩いているカバンの中に入れたり、首からかけてもらいます。
こちらも在宅で生活している利用者に用いられることが多いです。
まとめ
認知症による徘徊への対策について書きました。
ポイントとしては、徘徊の行動に対策を講じるのではなく、徘徊の目的、理由にアプローチし、解決しなければならないということです。
単に立ち上がりや歩く行為を抑えようとしても、いたちごっこにしかなりませんし、お互いにストレスが増すだけです。
徘徊の根本理由、原因にアプローチすることによって、徘徊そのものをなくしていくようにしましょう。
そうすることで、施設での介護職の負担を大幅に減らすことができるはずです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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