認知症利用者の入浴拒否に困る介護職「認知症の方で入浴拒否する利用者さんがいる。無理強いしようものならすごい剣幕で怒られるし、その後しばらく機嫌が悪くなってしまうので、対応に困ってしまう。日本人は昔から入浴を楽しむ文化があるのに、どうして入浴を嫌がられるんだろう?なにかいい方法はないかな」
こんな悩みを解決します。
この記事の内容
認知症の利用者で入浴を拒否する方は多くいらっしゃいます。
話しをしてもなかなか伝わらず、思うように入浴していただけないことがありますよね。
施設だと最低週2回の入浴が求められていますし、それができなければ清拭をしなければなりません。
清拭は完全に利用者ひとりに職員が1名取られてしまうので、人手不足の介護現場としてはなんとか避けたいところです。
今回の記事は認知症の方が入浴拒否をする理由と、その解決方法を書いていきます。
結論としては、入浴拒否のアセスメントをする際に、入浴に対する固定観念を外す必要があります。
なお、認知症ではない方の入浴拒否については、下の記事をご覧ください。
入浴に対する固定観念を外す必要がある
現役で働く世代と、介護を受ける高齢者の世代では、若い頃の入浴習慣にちがいがあります。
認知症の方は昔に戻られるわけですから、そのちがいを踏まえて考えないと、入浴拒否の理由が見えてきません。
ポイントは次の2点になります。
- 現在の高齢者の若い頃の入浴環境
- 入浴のとらえ方に対するジェネレーションギャップ
掘り下げていきます。
現在の高齢者の若い頃の入浴環境
現在に生きる私たちと、一昔前の方の生活における入浴を取り巻く環境はちがいます。
現在の入浴の環境をまとめると次のようになります。
- 自宅にお風呂がある
- 多様な入浴方法
- お風呂はリラックスできる場所
- 毎日入浴する
- 毎日水を換える
- 毎日洗髪、洗身をする
- シャンプー・リンス・ボディシャンプーを使用する
しかし、自宅にお風呂が普及し始めたのは、それほど昔のことではありません。
銭湯が1965年頃(昭和40年)に全国約22,000件に達し、ピークを迎えていたことを考えると、内風呂が主流になりだしたのはこれ以降ということになります。
銭湯の変遷としては、1965年をピークに
1996年(平成8年):9,461件
2006年(平成18年):6,326件
2016年(平成28年):3,900件
と減少しています。
銭湯の減少は、自宅での入浴があたりまえとなり、銭湯での入浴は「特別な行為」に変わったことを表しています。
つまり、現在の高齢者が若かった時代には、今のような自宅で入浴する習慣がなく、銭湯で近所の人たちといっしょに入るのがあたりまえでした。
また、現在のような液体のシャンプーが世に出てきたのは1950年で、普及したのは1955年頃とされています。
リンスが出てきたのはさらにあと、1960年です。
現在のようにシャンプーやリンスが重宝され始めたのは、1985年頃の朝シャンブームがきっけかけとされています。
ですから、入浴を取り巻く環境は、この60年ほどで大きく変化しているのです。
現在の高齢者の若い頃の入浴習慣をまとめると次のようになります。
- 自宅に風呂はなく銭湯で入るのがあたりまえ
- 汚れた時に入浴、洗身、洗髪する
- 来客やお出かけなど特別な日の前日に入浴する
- 入浴は贅沢な行為
- シャンプーやリンスはなく、石鹸を使用
入浴のとらえ方に対するジェネレーションギャップ
介護を提供する世代と、介護を受ける世代の生活習慣には、ジェネレーションギャップが存在します。
入浴拒否については、このちがいを踏まえて考えていかないと、原因を突き止めることが難しい場合があります。
また、現在の私たちのあたりまえを利用者に押しつけてしまうことにもなるのです。
ですから、前提としてこのちがいをおさえておかなければならないということです。
認知症の利用者が入浴を拒否する理由
それではジェネレーションギャップという前提条件を踏まえて、認知症を患う利用者の、入浴拒否の原因を考えていきたいと思います。
私の介護職、ケアマネ10年以上の経験も踏まえて、書いていきます。
まとめると次のようになります。
掘り下げていきます。
入浴の理解ができない
認知症を患っておられる方の中には、入浴という行為が言葉では理解できない方もいらっしゃいます。
ですから、利用者からしたら「どこに連れて行かれるのか、なにを企んでいるのか」と不安になります。
しかも、入浴用のエプロンを着用してたり、Tシャツに短パンの職員が迫ってくるわけですから(笑)
そんな時は、入浴で使う洗面器や、お風呂の写真を持っていくなど、視覚的に理解しやすい工夫をするのが良いですね。
昼間からそんな贅沢はできない
昔の習慣では、入浴はある種贅沢なもの、というとらえ方になっていました。
また、入浴は夜にするもの、という認識があります。
施設やデイサービス、訪問介護での入浴は、職員の勤務の関係上、昼間に実施されます。
昔の人からしたら昼間っからお風呂に入るような贅沢はできない、という受け取りになります。
ですので、今日は特別な日であるという演出が効果的かも知れません。
「お客さんが来るかもしれないから」
「お孫さんが来るかもしれないから」
といった、特別なことに対しての準備をしましょう、という持っていき方をすると、入浴されるかもしれませんね。
自宅で入る習慣がない
自宅にお風呂が設置されるようになったのは、戦後しばらくしてからのことです。
ですから「家にお風呂があるのがあたりまえ」となったのは、ここ半世紀ぐらいのことなのです。
それ以前は自宅近くの銭湯に行くのがあたりまえでした。
そこで近所の方と交流をはかっていたんですね。
訪問介護によって自宅で入浴を提供する場合、このような習慣が拒否の理由になっているかもしれません。
こういう方にはデイサービスでの入浴を勧めた方が、入ってもらいやすいと思われます。
自宅のお風呂のイメージが悪い
現在のお風呂は、次のようなイメージがありますよね。
- 和洋折衷の広い浴槽
- 足が伸ばせてゆっくり入れる
- 明るくてきれい
和洋折衷の浴槽で、足が伸ばせてゆっくりでき、きれいで明るいイメージです。
しかし、昔のお風呂のイメージはどうでしょうか?
- 和式の狭い浴槽
- 身体をたたんで入浴
- 暗くて狭い
和式の狭い浴槽に、狭くて暗い浴室、狭い脱衣所というイメージがありませんか?
私たちが持っている自宅でのお風呂のイメージと、利用者の持っているイメージは異なっている可能性があります。
拒否する方は、そんな自宅でのお風呂が好きではなく、銭湯のような広いお風呂で入りたいと思っているかもしれません。
入浴介助のマイナスイメージ
入浴介助は食事、排せつと並んで「三大介護」と呼ばれます。
三大介護の意味は、生活の中で大事な3つ、という意味と、介助する側にとって大変な3つという意味があります。
施設やデイサービスでは、入浴介助は時間との闘いですよね。
一日に決められた人数を、決められた時間内に入浴していただかなければなりません。
しかも高温多湿のお風呂での介助は、介助者の体力を大きく奪います。
ついつい表情が険しくなってしまうこともありますよね。
認知症の利用者は、視覚情報が頭に残りやすいと言われています。
ですから、険しい表情をしている職員の顔を見て「お風呂=職員が怖い」という印象を持っているかもしれません。
それが拒否につながっている可能性がありますね。
大変な介助の中ではありますが、介助者はできるだけやわらかい表情をするようにしましょう。
裸でない人がいる混乱
銭湯に行くと、入浴している人は全員が裸です。
しかし、入浴介助を受ける際は、介助者は服を着ています。
お風呂になぜ裸でない人がいるのか?という混乱を招くことがあるようです。
それが入浴拒否につながってしまうようですね。
身体が汚れていない
昔は、お風呂は汗をかいたり身体が汚れたりしたときに入るもの、というとらえ方でした。
今のように、毎日必ず入る習慣ではなかったのです。
ですから、汗をかいていない、身体も汚れていない、なのに入浴するのはおかしい、と感じておられるかもしれません。
こんな時は、昼間の入浴と同じく、特別なことがある準備として入浴してもらうよう伝えましょう。
まとめ
認知症の利用者の、入浴拒否の原因について書いてみました。
私たちはつい自分たちのあたりまえでものごとを判断してしまいます。
しかし、アセスメントをする中で、現在のものさしで測るのではなく、利用者のあたりまえをものさしにして考える必要があるということですね。
そうしなければ、認知症の利用者の拒否理由にたどりつくことは難しいかも知れません。
強引に入浴を促してしまうと、ますます入浴拒否が強くなることもあります。
ですから、固定観念や先入観を捨て、本当の拒否理由を掘り起こし、解決する必要があるのです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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