身体的拘束についての介護保険法上の決まり
平成30年4月の改正により、身体拘束の廃止に関して国はさらに厳しい対応を事業所側に求めてきました。
これまでも身体拘束について、
「サービスの提供に当たっては、当該入所者又は他の入所者等の生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、身体的拘束その他入所者の行動を制限する行為を行ってはならない」
という決まりが定められ、この緊急やむを得ない場合を下記の通りとしていました。
- 切迫性・・・・・危険が目の前まで迫った状態であること
- 非代替性・・・・身体拘束以外に解決できる方法がないこと
- 一時性・・・・・期間が限られていること
この3つの条件をすべて満たしたうえで家族様に説明をし、身体拘束の記録を細かく残しておく必要があったのです。
今回の改正ではこれに加えて以下の内容が追加されました。
- 身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会の設置
- 身体的拘束等の適正化のための指針の作成
- 身体的拘束等の適正化のための従業者に対する研修の実施
では、具体的にどんなことが身体的拘束に当たるのでしょうか
身体的拘束と認められる具体的な事例
介護保険法上には具体的な身体的拘束の事例として次のようにあげています。
- 徘徊しないように、車椅子やイス・ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
- 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
- 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
- 点滴、経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
- 点滴、経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける。
- 車椅子・イスからずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型拘束帯や腰ベルト、車椅子テーブルをつける。
- 立ち上がる能力の有る人の立ち上がりを妨げるようなイスを使用する。
- 脱衣やオムツはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
- 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る。
- 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
- 自分の意思で開けることの出来ない居室等に隔離する。
要は利用者が自分の意思での行動することに制限をかけることが身体的拘束に当てはまります。
身体的拘束をしてはいけない理由
さて、なぜ身体拘束は禁止されているのでしょうか。
認知症の利用者が、自分の身体能力を正しく認知できず、転倒のリスクが高いケースであったり、点滴や経験栄養のチューブを抜こうとすることで自分の身体を傷つけてしまうリスクであったりを考えると、利用者の安全を守るためにも身体拘束が必要なケースはあるように考えられます。
しかし、身体拘束はそれらのリスクを防ぐ以上に、利用者に大きな弊害を及ぼすのです。
想像してみてください。
もし自分が自分の意志で動くことを制限されてしまったらどうですか?
トイレに行こうとしても、椅子から立ち上がることができないようにされているのです。
自分の意志でほどくことはできません。
泣こうが叫ぼうが拘束を解かれることはないし、それどころか逃れようとすればするほどより強固に拘束されるのです。
トイレは垂れ流し、行きたいところには行けず、身動きも取れない状況で放置されると考えたら、身体拘束の恐ろしさが理解できるのではないでしょうか。
その結果、人はどうなっていくかというと、精神的に崩壊していくのです。
どうやってもこの苦しみから逃れられないと感じると、人はおかしくなるしかないんですね。
認知症の方はさらに認知症が悪化します。
転倒して骨折するよりも、チューブを抜いて身体に傷がつくよりもずっとひどい状況が待っているのです。
そう、人が壊れてしまうという結果が。
まとめ
身体拘束をすることは、一見利用者の安全を確保するために必要と考えられることがあるかもしれません。
しかし、書かせていただいたように、身体拘束は人を壊す恐ろしい手段なのです。
骨折や怪我は時間が経てば治ります。(寝たきりになるケースがあるのは理解したうえで)
でも人が壊れてしまったら二度と元に戻ることはありません。
そう考えれば、ただ法律で決まっているから身体拘束はしてはいけない、というとらえ方ではなく、大切な利用者の人格を壊してしまうからダメなんだととらえることができるのではないでしょうか。
最後まで読んでくださりありがとうございます。
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