
「身体拘束をしてはいけない」ということはわかりました。しかし、身体拘束をしないとスタッフが疲弊してしまうよ、とも思います。廃止する具体的な方法を教えてください。
こんな悩みを解決します。
この記事の内容
介護保険施設や介護付有料老人ホームなどの特定施設、グループホームなどは、やむを得ない場合を除いて身体拘束を原則禁止されています。
しかし、身体拘束をしないと、とてもじゃないけれどすべての利用者に対応するのは難しい、という声もあります。
今回は、身体拘束をしない具体的な方法を、ケースごとに掘り下げていきます。
身体拘束をしてはいけない理由については、下の記事に書いていますので、そちらをご覧ください。
身体拘束をしないようにする方法
身体拘束を施設から完全に廃止するために必要なことと、ケースごとの具体的にあ対応方法は次の通りです。
- 身体拘束を選択肢リストから消す
- 個別ケースのアセスメントを深める
これらを掘り下げていきます。
ポイントは「あきらめない」ということです。
あきらめると思考停止に陥り、解決できなくなります。
身体拘束を選択肢リストから消す
まず、身体拘束をしないと決めることが重要です。
なぜなら、身体拘束をひとつの手段と考えると、視野が狭くなったり、思考の柔軟性がなくなるからです。
たとえば、ある目的地に行かなければならないとして
「原則としては自転車で行ってください。しかし、どうしても難しいと判断したら、車を使ってもいいですよ」
というルールが設定されたとします。
行く手段を考える際に、車を使える可能性がまったくないのと、ダメなら車でも、と選択肢にある状態では、どちらが真剣に自転車を使っていく方法を考えるでしょうか?
選択肢として車があるのであれば、自転車で行く方法を必死に考えませんよね。
自転車よりも車で行った方が早いし、楽なわけですから。
下手すると、なんとか車で行くために、自転車で行けない方法を考えるかもしれません。
ですから、身体拘束をひとつの手段としてではなく、完全に選択肢からなくす、ということが重要です。

でも、介護職に取ったら身体拘束という最終手段が心のよりどころになってたりするかもよ。それを奪ったら精神的にまいってしまうんじゃないかな。
という意見もあるかもしれませんね。
たしかに、対応がつらい、と考えながら行うと、精神的な負担は非常に大きくなります。
しかし、解決策を見つけることを「目標」に位置付け「その目標をチームで達成しよう、そうすることで利用者の尊厳が守れ、元気な老後を過ごしていただけるんだ、ご家族も喜ばれるんだ、なにより自分たちの達成感につながるんだ」と考えれば、やりがいに変わるのではないでしょうか。
どうとらえるかで、つらいことか、やりがいのあることかが変わってきます。
個別ケースのアセスメントを深める
次に、個別ケースについてのアセスメントを深めていくことが必要です。
利用者の身体拘束につながるような行為の原因を、突き止めるためです。
対応が困難なケースは、アセスメント能力を高めるチャンスでもあるので、ぜひチャレンジしてください。
この場合は「必ずどこかに原因があるはずだ」という前提で掘り下げていくことが重要です。
そうすることで、あらゆる可能性に目を配ることができます。
立ち上がり、徘徊に対するアセスメント
徘徊の言葉の意味は「目的なく歩き回る」ことです。
ですから、認知症の利用者が歩き回ることに対して、「徘徊」という言葉を使うのは、実は不適切です。
なぜなら、認知症の利用者は目的を持って歩き回っているからです。
たとえば、次のような理由です。
認知症の方は、自分が一番輝いていた頃、生きがいを感じていた頃に戻られる方が多いと言われています。
女性ならば子育てをしていた時期、男性ならばバリバリ働いていた時期、という方が多いですね。
実際に私も女性の利用者さんから「子供待ってるんよ、はよ家に帰らせて」と悲壮な顔をして訴えられたり、男性の利用者さんから「会議に行かなあかんのや、早くそのエレベーターに乗せてくれ!」と怒られたりしたことがあります。
利用者さんにとったら、子供がひとりになってしまう!であったりとか、重要な会議に遅れてしまう!などは、間違いなく一大事ですよね。
だから必死に歩き回れられるはずです。
また、トイレについても、失禁することは人生の一大事ですから、必死に探されるのも当然ですよね。
トイレをさがしている可能性があるならば、利用者が立ち上がったり、歩き回ったりされたときに、トイレ誘導すれば問題が解決します。
また、昔に戻っておられるのであれば、「子供さんはご主人が迎えに行かれましたよ」とか「会議は中止になったようですよ」など、安心できる声掛けをすることで、解決する可能性があります。
おむついじりに対するアセスメント
どういったときにおむつをいじられているのかを把握する必要があります。
排泄物があるときにいじっておられるのであれば、気持ちが悪いからであったり、失禁したことを隠そうとされたりしている可能性があります。
また、普段からいじられているかたは、おむつの当て方、むれの問題を考える必要があるかもしれません。
その他にも、股間をさわるしぐさには、寂しい、不安といった心理状態を表している、という見方もあります。
このように原因を探っていくと、解決策が見えてきますね。
たとえば次のような解決策です
おむつで常に排泄することが当たり前になると、介護職にとってもそれが日常になります。
しかし、本当におむつが必要なのでしょうか?
排泄パターンを把握して、トイレ誘導できないでしょうか?
身体機能が低下していても、トイレに座れない人はほとんどいません。
よっぽど拘縮がひどくて腰が曲がらないとか、血圧の関係で座位をとると身体的に負担が大きすぎるなどという方は別ですが、それ以外であればトイレに座ることは可能ですよね。
それならば、排泄パターンを把握してトイレに座ってもらい、おむつを外してしまえばいいのではないでしょうか?
そうすればおむつの中をいじることもなくなりますよね。
心理的な理由からきている方に対しては、声掛けを増やしたりするなどして、安心できるように導いてさしあげることで改善する可能性があります。
まとめ
身体拘束を廃止するための具体策について書いてみました。
多くの利用者を、少ない人数で介護する状況だと、とてもじゃないけれどそんな余裕はない、と感じるかもしれません。
しかし、解決することでまちがいなく負担は軽減します。
たとえば、おむつの中で便失禁されそれを処理するよりも、トイレ誘導してトイレで排泄してもらう方が、利用者も気持ちがいいですし、介護職もずっと楽になり排泄介助の時間が短縮できます。
解決までの時間を惜しむのではなく、解決後のメリットを考えて取り組んでみると、良い結果が得られます。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
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